「あ・・・そうですか。・・・・わかりました。・・・失礼します・・・・」

ただでさえ自分に自信がある上に、依頼主の娘ともなれば断られるはずもないと高を括っていたのだろう。女は信じられないといった面持ちでフラフラと今来た道を戻っていく。

「せっかく俺が一役買ったのに無駄になったな」

女の後ろ姿を見ながら森さんが苦笑いしている。

「すみません、せっかく憎まれ役を買ってもらったのに・・・。でもああいうのは最初にはっきり言っておかないと後がしつこくなるので」

「それは言えてるな。今頃あの娘、父親に泣きついてるだろうな」

「はぁ~、仕事に絡めてきたり親を巻き込んだり、勘弁して欲しいです」

「ははっ、モテ男はつらいなー。今日は休みだったのに悪かったな。事前にわかってればお前を来させたりしなかったのに。俺が甘かった」

「なんで森さんのせいになるんですか。こっちこそ気を使わせてしまってすみません」

「まぁせめて午後からだけでもゆっくりしてくれや。ついでに送っていくから車に乗れよ」

「いいんですか?ありがとうございます」

「おーおー、いいってことよ」

森さんの言葉にここは素直に甘えさせてもらって、今日は久しぶりに家でゆっくりしよう。俺は彼とくだらない話をしながら車の中でそんなことを考えていた。




まさかこの後に運命の時が迫っているなんて夢にも思わずに。