サヨナラなんて言わせない

俺はその言葉の真意がまだその時はわかっていなかった。


当時カナはあのバーでバリバリ働いていた。
学生時代世話になったというマスターの店は、あの時経済的にかなり苦境に立たされていたという。そこで立ち上がったのがカナだった。

元々ガールズバーではなかったのだが、カナの存在が客を呼び、さらにその評判を聞きつけたそっち系の女の子達がカナの元で働きたいと志願してくる。そういうことが繰り返されていくうちに、いつの間にか上玉だけが働くバーへと変わっていった。

元来カナはいつか自分の店を持つのが夢だった。
だからあの店を再起させるのは本望だったのだろう。
経理のプロでもあった彼女は、みるみるうちにあの店を立ち直らせていった。
マスターからはいずれあの店の所有権をカナに譲ると打診されていたらしい。
あいつは保留させてほしいと答えていたようだが。


カナのその頑張りに刺激されるように、俺自身も自分を取り戻していった。

俺には涼子しかいない。
いつか胸を張ってもう一度彼女に会いに行けるような自分になる。

そのことだけを胸に俺は再び夢を追うようになった。