サヨナラなんて言わせない

一晩中俺がここにいるなんて考えもしなかったのだろう。
男は驚きに固まったまま俺を凝視している。

俺はゆっくりと足を踏み出すと大きなストライドで一気に男の前へと立ちはだかった。さっきまで体の芯から凍えていたというのに、今は燃えるように熱い。


「涼子は渡さない」


まだ俺の姿に戸惑いを残す男に俺ははっきりと言った。
その一言に男の目がさらに大きく見開かれる。
さらに畳み掛けるように俺は言葉を続けた。

「お前がどういうつもりでも・・・・たとえ彼女と何か関係があるのだとしても・・・・どんなに涼子の体を手に入れたって心だけはやらない!絶対に渡さない」

男があまりの俺の剣幕に息を呑んだのがわかった。


自分でも信じられない。
自分の中にこんなに激しい感情があったなんて。
人との争いなんて、自分からは一番遠いところにあるものだと思っていた。

だが、涼子のことだけはどうしても譲ることはできない。
彼女ときちんと向き合うことができるまで、何があっても絶対に。


俺の言葉に意表を突かれた形となっていた男だが、やがてその眼に力が宿る。
負けじと俺を鋭い眼光で睨み付けた。

「選ぶのは涼子さんですよ」