サヨナラなんて言わせない

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気が付けば暗かったはずの辺り一面が白みがかっていた。
そこかしこで小鳥たちが忙しなくさえずりまわっていて、いつの間にか夜明けだということを知らせている。


頭の先から足の爪先まで全身が氷のようだ。
指先の感覚なんてほとんど残っていない。

・・・・それでも、どうしてもこの場を離れることができなかった。

あの男は涼子の部屋には泊まったりしないと、信じていたかった。

ほんの少し前まで俺が過ごしていたあの空間に
俺が行ったとき、男の気配なんて微塵も感じられなかったあの空間に


だが・・・・


感覚をなくして力の入らない手のひらを何とか握りしめる。

震えているのはかじかんでいるせいなのか、それとも・・・・。

途方に暮れてまともに思考も働かない。




その時、マンションのエントランスが開いて誰かが出てくる気配を感じた。

引き寄せられるように目線を上げると、次の瞬間にはガバッと立ち上がっている自分がいた。凍り付いて感覚なんて残っていないのに、体が無意識で動いていた。

「えっ・・・・?」

俺の姿に気付いた相手も驚きに目を見開いている。
数メートルの距離を挟んで俺たちは互いに一歩も動けずにいた。