サヨナラなんて言わせない

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「あれっ、どうしたの?事務所にはしばらく来ないって言ってたのに」

突然現れた俺にカナは驚きを隠せない。

「そうだったんだけどな。少し余裕ができたから日中だけでもできる仕事はこなそうと思ってな。・・・岡田は?」

「彼なら今森さんの所に行ってるわよ」

「あぁ、そういうことか」

森さんというのは俺が以前勤めていた会社の社長だ。
40とまだ若いがこの世界での人望は厚く、俺が学生の頃からバイトで世話になっていた。そのまま就職し、そして俺が独立するときにはこんな若造にもかかわらず誰よりも力を貸してくれた。
カナと同じく、感謝してもしきれないほど俺の人生には欠かせない大切な人物だ。

岡田は独立する際俺についてきたが、時折森さんの事務所に行っては色々と勉強させてもらっている。普通ならそんなことは許されないが、森さんはそれを喜んで受け入れてくれる、本当に懐の深い人間だ。
だからこそこの道でしっかり足場を固めることで、
自分なりの恩返しをしたいと常日頃から思っている。