サヨナラなんて言わせない


翌朝。

底冷えのする室内にカーテンの隙間からまばゆいほどの光が差し込む。
眩しさで目を覚ますと、いつものように真っ先にエアコンのスイッチを入れる。
その足でキッチンへ向かうと、すぐに朝食の準備を始めた。

やがて室内に食欲をそそる匂いが充満していく。
それと同じ頃合いに部屋の中もほどよい暖かさに包まれる。
この部屋に来てすっかり習慣化された手順を一通り済ませると、最後は家の主の元へと向かう。

部屋の前までやって来ると軽く深呼吸をし、ドアをノックした。
・・・・反応がない。まだ寝ているのだろうか?
確認するためにそっとドアを開けた。

「涼子さん、おはようございます。調子はどうです・・・」

「これでどうっ?!今日こそは仕事行っても文句言わせないわよ!!」

小さな声で囁きながらドアを開けていく俺の目の前に、突然とあるものが差し出された。見るとまるで待ち構えていたかのように涼子が目の前に仁王立ちしていた。いきなりのことで驚いたが、それを受け取りじっと見つめる。

差し出されたもの、それは体温計。
液晶には36.9度と表示されている。

涼子はどうだ、文句は言わせない!と言わんばかりの顔で、
でもどこか不安げな様子で俺の言葉を待っている。
・・・・・ふっ、まるで先生に怯える子どものようだ。