忘れた

「早水、もう帰ろ」


自分の声とは思えないほど、低い声が出た。


「東…今のって」


「帰ろう」


あたしは早水の言葉を遮って、早水の手を取った。


グイッと引っ張る。


この場から早く逃げ出したかった。


なのに、早水は動かない。まるで石像のようにその場にとどまっている。


「俺…もうちょい、ここに居るわ。東は先帰ってて」


「え。何で、よ」


「いいから先帰れ、泣き虫」


あたしは慌てて目をこすった。いつの間にか、目には涙が溜まっていた。


早水に泣き顔を見られたことが悔しくて、恥ずかしくて、あたしは早水に背を向けた。


そしてそのまま、病室を飛び出した。


早水1人を残して。


こんなことで泣くなんて。


勇介の前では泣かないって決めてたのに。


あたし…弱い。


バカでマヌケで、どうしようもなく弱い。