忘れた

「奈緒…

わざわざ来てくれてありがとな」


あたしが病室に入ると、勇介はいつもこう言う。


わざわざありがとう、遠かっただろ。


なんて、気を遣っちゃって。


「いいの。気にしないで。

あたしが来たくて来てるだけだから。

あ、迷惑なら言って。…あたしたち、別れたけど仲の良い友達に戻ってたの。

勇介は覚えてないと思うけど」


嘘がポンポン口から飛び出す。


別れた…なんて。


すると勇介は優しく微笑んだ。


「迷惑じゃないよ。

確かに奈緒のことは覚えてないけど、来てくれるのは嬉しい」


「そか…よかった」


あたしはホッと胸をなでおろした。


「あのね。明日文化祭なんだ。

ダンス練習、本当に大変だったんだよ」


椅子に腰掛けたあたしは、文化祭の準備がいかに大変だったかを話した。


頑張って、静寂を作らないように話し続けた。


前までは、勇介と話をするときに頑張ったりしなかった。


でも、病室で話すときは頑張らないと、すぐに重い静寂が訪れる。