忘れた

なんて、な。


本当はわかってるんだけど。これは夢なんかじゃなく、現実だって。


でも…


全部夢ならいいのに。





時刻は夜の7時半。


面会時間が残り30分というところで、病室に1人の男がやって来た。


年は20代半ばといったところか。


「よお、久しぶり」


そう言って、スーツ姿のその男は俺のベッドのそばの椅子に腰掛けた。


「痛々しいなあ、お前。記憶喪失なんだって? お袋に聞いたよ」


親しげに話すこの男。くしゃくしゃな黒髪に、アゴにホクロ。見覚えがあるような、無いような。


「俺のこと、分かる?」


聞き覚えのある声。俺の頭に、ある人物が浮かんだ。


「お前…太一か?」


すると男はニコッと笑って、言った。


「正解。俺のこと覚えてたんだ」


なんと。高校時代の親友、太一もまた大人になっていた。