忘れた

驚いたような、怒ったような声。


あたしはそのときの状況を説明した。


『で、その早水って奴、奈緒と俺が付き合ってること知ってんの?』


「うん。彼氏がいるって言った」


はあ、とため息をつく勇介。


『そいつ、絶対奈緒のこと好きだ』


…そうなのかな。


からかったりバカにしたりするくせに、たまに優しいときがあるんだよな。


1番仲のいい男友達、だと思ってたし、今でも思ってるよ。


早水…あたし、どうしたらいいの?


『奈緒…会いたい』


「え?」


『今からそっち行く』


その言葉を最後に、電話が切れた。


…今から、うちに来る?


時刻は夜の9時過ぎ。毎日このぐらいの時間になると、勇介から電話がかかってきていた。


勇介が夜間の仕事に向かうまでの、短い時間のときもあるし、その仕事が休みでゆっくり話せるときもある。


勇介がうちに来たことは何度かあった。


でもあたしは勇介に、仕事で疲れてるから無理に会いに来なくていいよ、と言った。


勇介のことを心配して言った言葉だったが、それから勇介はうちに来なくなり、電話がかかってくるようになったのだった。