忘れた

触れるだけの、軽い、キス。


あたしはすぐに早水から離れた。心臓が嫌な音を立てる。


「な、なんで?」


あたしの口から出たのは、そんな言葉だった。


屈んだままの体制でボーッとしていた早水は、ハッとして我に返ったように立ち上がった。


自分の唇に手を当てる早水。


「ごめん、俺先行くわ」


自転車に乗って、風のように去っていった。





その日の夜。


「ねえ、勇介?」


『なに?』


「キスって、どういうときにしたくなるの?」


げほげほっ、と電話の向こうで勇介がむせた。


『い、いきなり何言い出すんだよ』


「ね、どういうとき?」


『そりゃ、好きだと思ったときじゃないの?』


勇介は困ったように言った。


「ふうん。じゃあ早水はあたしのこと、好きなのかな」


『はあ?』


「あのね、今日、クラスの男子にキスされたの」


『はあッ?』