そして、
「俺らの部屋、あそこなんだ~」
部屋に連れていかれそうになる。
「やめてよ…! 離して!」
グイッと腕を引っ張られて、部屋に
連れ込まれそうになったとき。
反対の手をグイッと誰かに掴まれた。
「あの。その手、離してください」
落ち着いた、聞き覚えのある声。
「高橋くん…っ」
それは少し、息をきらした高橋くんだった。
高橋くんの姿を視界に入れた瞬間、
わけもなく泣きそうになる。
「はあっ?お前なんなんだよ!」
すると、チャラ男のうちの1人が
高橋くんに詰め寄って怒鳴り始めた。
その声にビクッと肩を揺らすあたし。
けど、高橋くんは全く怖がる様子もなく
チャラ男たちを真顔で射抜くように睨みつけている。
「なにって、俺の大事な先輩ですけど」
そして、あたしを庇うように背中に
隠しながら、低い声でそう言った高橋くん。
そんな高橋くんの言葉に、またしても
ズキンッと胸が痛んだ。
“先輩”
なんだか、その響きが今までなら
普通だったのに、異常にちっぽけに
思えてきて。
あたしは高橋くんの背中に隠れながら、
グッと唇を噛んだ。



