「え? やっとって、約束は12時頃だったよね…?」
慧さんが顔を引き攣らせながら確認すれば
「……12時頃?」
お母様の片眉が、ぴくりと動く。
「いつから約束の時間が12時頃に変更になったのかしら? 私があなたと約束したのは、11時だったはずですが」
「え? 11時!?」
「あなたが11時と言うから時間を合わせたのだけど?」
その指摘にハッとした慧さんは
「あれ? 俺、11時に(マリアちゃんを迎えに行ってから)行くって……」
ピタリと動きを止めて何かをボソボソと呟くと、みるみるうちに顔面蒼白になっていく。
「慧?」
お母様に声を掛けられて、ぎこちなく目を逸らした慧さんは
「えーっと、あの、その……ご、ごめんなさいぃぃー!!」
脱兎の如く逃げ出した。
「え? ちょっ、慧さん!?」
私が声を掛けた時には、既に姿は消えていて。
パタンと、ドアの閉まる音が部屋に響く。
あっという間に部屋を出て行ってしまった慧さんだけど。
……戻ってきてくれるよね?
私、ここから一人で帰れないし、まだ自己紹介もしていないのですが!!
この状況をどうしろと!?
「……逃げたわね」
呆然としている私の後ろから、怒気を含んだ声が聞こえてきた。


