一瞬、自分の置かれている状況に反応できなくて。
ちゅっと音を立てながらゆっくりと離れていくその整った顔を、瞬きもせずに眺めていた。
「───あの時……」
「……え?」
ぽつりと呟かれた言葉にハッとして我に帰れば
「意識を失ったお前を病院に連れて行く途中、段々と脈が弱くなってきて……このまま死ぬんじゃないかと思ったら、すげぇ怖かった」
目の前で、くしゃりと顔を歪めた魁さんは
「処置が終わって、二日経っても目を覚まさねぇし」
気が気じゃなかったんだぞ、と当時の心情を吐露する。
「……すみません」
「お前のせいじゃねぇよ。……でも、もう俺も色々と限界だ」
「え……?」
限界って……?
魁さんの言葉に、落としかけていた視線を持ち上げて
「身体は、もう大丈夫なのか?」
「え……? はい、もう大丈夫で、す」
思考が回らないまま返事をすれば
「本当に? どこかに痛みは?」
確かめるように様子を窺う魁さん。
「本当に、もう大丈夫ですよ。どこも痛くないです」
安心してほしくて、もう一度はっきりと答えたら
「本当は、もう少し待とうと思ってたが……」
コツリと額が触れ合い、魁さんと真っ直ぐに目が合った。
あ……
そこにはイギリスの時と同じように、熱を帯びた光が宿っていて。
「このまま、全部俺のモノになっちまえ」
ほぼゼロ距離で囁かれた。