「やっと、思い出したか?」
不意に近くで掛けられた声に顔を上げれば、いつの間にか隣に並んでいた魁さんがこっちを見ていて。
「……はい、思い出しました」
「何か月も泊まってたのに、相変わらず気づくの遅ぇな」
くすりと笑みを浮かべて、私を見つめるその優しい眼差しに。
とうとう溢れ出してしまった涙が頬を滑り落ち、胸元を押さえていた手の甲を濡らす。
初めて会った時も、二度目にここで再会した時も、イギリスに戻った時も。
精神状態が最悪の時に、いつも魁さんは目の前に現れて。
その度に、ボロボロになった私の心を救ってくれる。
「だって……ずっと泊まっていたところが、まさか旅館だったなんて思わなかったんです」
女性のカウンセラーに、毎日問診に来る先生までいたから。
てっきり、どこかの療養所だと思っていた。
そう伝えれば
「確かにな。俺もそうだと思っていたから、お前を探すのに苦労した」
普通は、あの状態のマリアを旅館には連れてこないよな、と魁さんも同意する。
───え……?
「……私を、探してくれていたんですか?」
「あぁ。マークさんとの電話でお前の話になって、カウンセリングを受けながら日本で療養しているって聞いたから慌てた」
マークさんに聞いても教えてくれねぇし、必死だったよ。
そう言って、苦笑いを浮かべた魁さん。


