そしてお言葉に甘えて、ゆっくりと温泉を堪能すること一時間。

すっかり温まった身体は、ポカポカというより熱くなっていて。

脱衣所のひんやりとした空気が気持ちいい。

周りを見渡してみても私の他には誰もいないようで、静まり返った脱衣所を進んで行く。


「……あれ?」


おかしいな。

私の服が見当たらない。

一瞬、場所を間違えたのかと思ったのだけれど。

いくら酷い方向音痴の私でも、あまり広くないこの場所で間違えるわけもなく。


「えーと……これを着ろってことなのかな?」


恐らく私の服が入っていたであろう目の前の籠には、バスタオルと浴衣、新品の下着一式がきれいに畳んで置いてあった。

着る服もなく、このまま裸でいるわけにもいかず。

取り敢えずバスタオルで身体を拭いて、浴衣を着てみたのだけれど……


「……これでいいのかなぁ?」


旅館の浴衣なんて着たことがない私。

果たしてこの着方で合っているのかすらわからないけれど、いつまでも魁さんを待たせるわけにはいかないから。

急いで髪を乾かして、用意されていたアメニティの化粧水と乳液で肌を整えてからお風呂を後にしたのだった。