西川(にしかわ)は、渡された紙を見て、固まった。
「……じ、辞令ですか?」
「ああ、来週から滋賀県だ。あそこは良い所だぞー」
西川の目の前にいる、口髭が特徴的な沢渡(さわたり)は、銀縁の眼鏡をクイッと上げる。
西川は、まだよく理解が出来ずに沢渡をじっと見つめた。
「なんで、僕が……」
西川はいわゆる【エリート】だったためか、何故辞令が出たのか、不思議で仕方なかった。
なにかしてしまったのだろうか?
いや、そんなことはない。
沢渡部長の機嫌を損ねるようなことはしていないし、仕事も波に乗っているのに。
「……お前、ちゃんと書類を見ろ」
「えっ?」
沢渡はそんな西川に呆れて、見ている先を、窓の外から西川の方に変えてそう言った。
西川は、改めて紙を見た。
そこには、辞令の文字。
「……あれ?」
西川は、その紙の下になにかを見つける。