インテリアも洒落ていてどことなしに温かみがある。嫌味のない音楽がいつも控えめに流れている。
「こんばんわ」 
 ドアを開けて店内に入ると金曜の夜だというのに客はまばらだった。
 金曜でこんなんぢゃヤバイんでないの?なんて余計なお世話か。
時間も時間だし。
「お、雄太郎。今、帰り?」
 気さくなマスターは僕のことをそう呼ぶ。ほっとする瞬間だ。
「そ、事務のコが下らないミスしたおかげでとばっちり」
 カウンターに見慣れぬ髪の長い女性がいた。年のころは僕とそう変わらないだろう。
「ここ座れよ。ミクちゃんの隣。ミクちゃんもいいだろう?」
 初対面の彼女になんだか悪い気がして、彼女のほうに目をやると彼女も戸惑いつつも「どうぞ」というように、手で椅子を指した。 遠慮がちにミクさん・・・と呼ばれた女性の隣に座る。
 彼女も会社の帰りなのだろう。きっと事務職だろうな。A4サイズの用紙が入るバッグ。通勤服にありがちなファッション。
 意外だったの彼女の香水。
 嗅いだことのない香りとその濃度の心地よさだった。
僕の周りの女の子はたいてい雑誌で紹介されていたブランドの香水をこれ見よがしにつけていて、たまに気分が悪くなる時がある。
 彼女にはそれがなかった。ミクが動くたびに少しだけ匂う柑橘系の香り。
 僕はミクに好感をもった。
「何にする? 雄太郎」
「スミノフ。黒いほうがいいなぁ」
「お前だけだぞ~、スミノフブラックをこの店で飲むの」
「いいぢゃん、好きなんだからさ~」
「オレの腕がすたるっての」
 マスターはスミノフの瓶を取り出すと栓を開けて僕に手渡した。