「ウザイ」
思わず口から出てしまった。
毎日のように俺の部屋に来て、猫のようにまとわりつき、下らないおしゃべりをして帰っていく。
おびえたような眼で美咲は俺を見上げていた。
「なんで? 私達付き合ってるのに・・・」
「だからって限度がある」
「限度って・・・ヒロキ酷いっ」
酷い? こういうのがイヤだから合鍵も渡さなかったのに、会社帰りに待ち伏せするように部屋の前にいるのは酷くないのかよっ!
声になりそうな思いを必死で抑えながら無言で玄関のドアを開けた。
「頼むから・・・今日はもう帰ってくれ」
顔を見ることが出来ない。
きっとまた泣かせてしまった。
どうしていつもこうなんだろう。
付き合うたび女はずうずうしくなって、最後はいつもこれだ。
自己嫌悪だ。
「私達、これで終わり?」
そらしていた顔を美咲に向けると、彼女は泣いていなかった。
「終わりじゃないけど・・・」
彼女が・・・俺が思っていたような反応を見せなかったので、玄関のドアを閉めた。
今までになかった新しい展開だ。
「ごめん、私またやっちゃったんだぁ・・・」
うつむきながら自分に言い聞かせるようにつぶやいている。
「『また』って・・・?」
「少し話してもいい?」
俺は黙ってうなずくと彼女の向かいに座った。
美咲もその場に座り込む。
「私ね・・・前の彼氏にも、その前の彼氏にも言われたの。『ウザイ』って」
自嘲気味に笑う美咲は淡々として、俺の怒りもどこかにおさまってしまった。
「どうしてなのかなって、いっぱい考えたの。友達にもイロイロ聞いたし、恥ずかしかったけどお母さんにも聞いて・・・」
思いつめているのかスカートをギュッと握り締めて、少し痛々しく見えた。
「私ね、好きな人とずーっと一緒に居たいの。一緒に居ると安心できて暖かくって・・・だから彼氏もみんなそうなんだって思い込んでて、それが当たり前なんだって思ってた。お母さんに聞くまでは・・・」
美咲の瞳がうるうるしてる。
泣くのかっ?