終電。
 金曜日の夜だというのに残業なんて、情けないような悲しいようなキモチ。
 見慣れた風景が電車の窓に映る。 1人暮らしでおまけに彼女とも先月別れて、遅く帰ることに咎める人はいないけど、寂しいキモチは同じ。
 降りる駅がアナウンスされる。車掌さんの声も心なしか力がない。
 夜になって無精ひげがはえだした顎に手をあて苦笑する。
(つまんねぇなぁ・・・)
 こんな日に限って携帯は鳴らないし、こんなに遅くては誰かを誘うわけにもいかない。かといって真っすぐ部屋に帰る気にもならない。
 重い身体を引きずるようにプラットホームに電車が止まると、生暖かい風の吹くホームへ降り立った。
 時間が時間なので人影は数えるほどしかない。予報では来週が桜の見ごろだそうだ。ホームのすぐ近くに植えてある桜の木はところどころのつぼみがほころび始めている。
 春独特の湿度を帯びた柔らかい風が首筋をなでる。なんだかソワソワするような落ち着かないような風だ。
 家に待っている人が居るでもなし、それに明日は休日。自然と行きつけのバーに足が向く。
 バー・フォーシーズン
 駅と自宅の丁度中間地点にあり、今日のような日は大体寄ることになる。
 人間は可笑しなもので疲れているときほど見知った人間に会うと安心して心が和む。マスターの奥さんが季節ごとの花が店内に生けてあり、季節を感じられてなんだか落ち着けた。