無理して笑うな


唯は次の日、学校に来なかった。



次の日も、その次の日も来なかった。



俺は避けられていることを自覚していた。



俺が悪いのももちろん分かっていた。



それから1週間して、担任の先生が呟くように言ったんだ





「嵯峨山さんね、本当は今日で学校に来るの最後の日だったの。

転校しちゃうのよ。引越す先は同じ東京なんだけどだいぶ遠いのよ。」




転校しちゃう…転校しちゃう…




先生の言葉が頭の中をグルグル回った。



俺はその日走って家に帰った。



あの日、唯が俺に一緒に帰ろうと言ったのは引っ越すことを伝えたかったのだと、このとき気がついた。



1週間前に伝えて、残りの時間を友達と精一杯楽しみたかったんだと



でも、その望みを俺が打ち砕いてしまった



俺があんなことを言わなければ、唯は学校に来たかもしれないのに…



息を切らして俺が立ったのは自分の家の前ではなく、隣の唯の家だった。



しかしそこはひっそりとしていた。



唯のお母さんはこの時間になるといつも唯と唯のお兄さんのためにお菓子を作る。



俺もその匂いに誘われて何度も家にあがって食べさせてもらっていた。



でも、唯の家はそんな様子もなく真っ暗だった。