〈悠斗said〉
俺は拓真がいつも出てる雑誌の撮影に社長と一緒に見学に行った後、その足でドラマの撮影に来た。
「あら…携帯どこだったかしら…」
急にそんなことを言い出した社長は、しばらくキョロキョロと探し回ったあと俺と拓真を見て困ったように笑った。
「たぶんスタジオに忘れてきたのね。あなた達、先に行ってなさい。」
そしてテレビ局に入り、撮影場に向かうところでトイレに行ってくると言った拓真を待っていた。
「はぁ…」
俺はため息をついた。
モデルがこんなにハードなものだとは思わなかった。
拓真は朝からいろんなところに撮影に飛び回っていた。
それは拓真がトップモデルだからなのももちろんあるだろうが、忙しいにも程がある。
拓真が言うには一応芸能科の高校に在籍してはいるが、ここしばらく行っていないらしい。
今になって勉強と部活とモデルのすべてを頑張る流星が恐ろしく思えてきた。
そのとき、俺は廊下の先に自動販売機を見つけた。
俺はもたれていた壁から立ち上がって歩き出す。
少し拓真から離れても迷わなければそれでいい。
そして通路と接した踊り場に出た時、俺は誰かとぶつかりそうになって足を止めた。
俺の方がもう踊り場に出ているから、向こうは止まって俺が先に通るのを待ってくれている。
でも俺はその姿に見覚えがあって柄にもなくじっと見つめてしまった。
その人が唯だと気づいたとき、俺の心臓がどれだけ大きな音をたてたか…
拓真と撮影するんだから会えるとは思っていたけど、こんな近くで姿を見れるとは思わなかった。
唯が「あ、あたしも…!」と言ったとき、俺は本当にびっくりした。
コンサートのことを謝る唯に俺は慌てて首を振る。
「唯が謝る必要ないだろ。メールで会いたくないって言われてたのに…」
俺はそこまで言ってメールの存在を思い出した。
「…メールでは会いたくないって言ってたのに…」
俺の、少し拗ねた口調に気づいたのか唯がパッと顔を上げた。
「だって…本当に突然悠斗に会って、それからメールして、会いたいなんか言われたら焦るでしょ!」
唯が顔を真っ赤にして言い訳した。