「こっちは私から。

 彼女と一緒に、ラウンジに出掛けるもよし
 展望台のレストランで食事をするのも良し」


親族と言えども、御前と呼ばれる伊舎堂の前会長に認められたものしか
贈られることのない大切なアメジストの填め込まれた百合のピンバッジを俺に手渡す。


「託実もこのピンバッジの効力は知っていると思う。
 それを持っている限り、彼女にも託実にも危害を加えようとする者は居ない。

 それを持つ者に危害を加えることがどういう事か酷く知られているからね」


そう言いながら裕兄さんは、
そのバッジを俺のジャケットに留めた。




かなりのお膳立てにびっくりしながらも、
兄さんたちがバックに居るって言うだけで、
Ansyalにも隆雪にも、メンバーにも迷惑かけずに
公認で彼女と会えることの方に、何よりも嬉しさを感じた。



その夜、スタジオでベースを鳴らす俺のスマホが着信を告げる。




見知らぬ電話番号。




だけどその番号は、百花ちゃんかも知れなくて
ベースを演奏する手を停めてすぐに電話に出た。




「もしもし、亀城です」

「夜分にすいません。
 喜多川と申します。

 託実さんの携帯電話でしょうか?」


そう問いかける彼女の声に、
俺自身の鼓動が高鳴る。


「百花ちゃん、電話有難う。
 仕事、終わったの?」


仕事モードの俺ではなく、
少し力を抜いてリラックスした口調で答える。


「はいっ。
 えっと……今仕事終わって、お祖父ちゃんから
 託実さんのくれたお届け物全部頂きました。

 後……電話番号も。
 こんな大切なもの、私に教えちゃっていんですか?」

「構わないよ。
 俺が百花ちゃんには知っていてほしかったから」




そう……俺が君のことが気になるから。

少しでも君に繋がっていたいから
あのメモ帳に書き残した。



「良かった……」



そう言って紡ぐ彼女の声は震えて、
受話器越しに彼女が泣いてるのが感じて取れた。


そんな彼女をギュッと抱きしめたい衝動に駆られる。


「良かった……。すいません、ヒック……
 嬉しいはずなのに……ヒック、涙が……」


泣きながら言葉を続ける彼女。