神様は約束……守ってくれなかった。


だったら神頼みなんて最初からしないで、
私がお姉ちゃんに元気をあげたらよかった。


どんなに後悔しても、
気が付いた時にはもうお姉ちゃんは居ない。



そんなお姉ちゃんを精一杯忘れないように、
私はこの時期、1枚ずつお姉ちゃんの絵を描き続けた。



いつも寂しそうな表情のお姉ちゃんが、
今年は少し笑ってくれた、そんな気がした。



命日から2週間くらいたった頃、
展示会の手伝いを終えて画廊に顔を出すと、
そこには遅い時間なのに、お祖父ちゃんの姿があった。



「百花、お帰り」

「ただいま、お祖父ちゃん。
 今日も凄く勉強になったよ」

「そうかい。
 百花が櫻柳会長主催の展覧会の絵がまだ描きあがっていないのは
 私は知っているよ。

 そして少しずつイメージが出来ていることも。
 いろんなことを吸収して、いろんな想いを筆に乗せる。

 そうして納得の行く一枚になればいいね」


そう言いながらお祖父ちゃんは、
手に何かを持って近づいてくる。



それは見慣れたナイロンの袋。
香港のホテルで託実の部屋に忘れた戦利品。



「前に百花の絵を購入してくださった亀城様が、
 わざわざ持って来てくださった」


そう言うとお祖父ちゃんは、
手荷物を私の前に置いた。


忘れ物のナイロンの袋には、
あの時購入したままの戦利品が入っていて
もう一つの袋には、有名洋菓子店のケーキ。


そして……その上にのせられた小さなメモ。



この画廊のメモに走り書きされた託実からのメッセージ。





百花ちゃんへ

今日は会えなくて残念でした。

長い間返せなかった、
百花ちゃんの忘れ物お届けします。


今日、喜多川会長に百花さんもお姉さんを
亡くされたことを知りました。 

だからあんなところで、お会いしたんですね。


9月25日の夜。
今日の代わりにお会いすることは出来ませんか?

ご連絡お待ちしています。



亀城託実
090-xxxx-xxxx