ドライヤーで髪を乾かして、
服を着替えると、宝珠姉へと一本連絡を入れる。



『今日、少し行きたいところがあるから夕方にスタジオに入る』


蒔田如月との初顔合わせの日。

その時間までに入れれば、慌ててスタジオに詰めることもないだろう。


「わかったわ。
 最近、託実太陽にあたってないもの。

 太陽の光に当たらないと、マイナスの力ばかり膨らんでしまうわ。
 そうやって裕お兄様が言ってたもの。

 ゆっくりしてきなさい。

 冬休みのAnsyalのスケジュールについては、実夜と美加と私で詰めておくわね」

「わかった」


責任者でもある宝珠姉に許可を貰って、
俺は僅かな望みをかけて、彼女の忘れ物を手にして自宅マンションを出掛ける。



途中、有名なパティシエのお店で買ったケーキを手土産に
向かうのは彼女の職場である画廊。


画廊の駐車場に車を停めて、
店舗の中へと入っていく。



「いらっしゃいませ」


そう言って俺を迎えるのは、
初めてこの場所に来た時も百花ちゃんと迎えてくれた女性スタッフ。


「これは亀城様。
 ご無沙汰しております。
 本日はどのようなご用件でしょうか?」


【相本】と記入された名札を付けた女性スタッフ。


「申し訳ありません。
 今日は客としてではなく、こちらで働く喜多川百花さんの友人として
 お邪魔させて頂きました」

そう言いながらゆっくりと頭を下げた。


「まぁ、さようでございましたか。
 百花さまは、生憎、展覧会のスタッフとして出掛けておりまして
 夜まで戻りません。

 ご用件をお伺いしても宜しいでしょうか?」


丁寧に切り返す相本さん。


「先月、香港でお会いした時に彼女が忘れた手荷物を遅くなりましたがお持ちしました。
 それと……時間があれば、こちらのケーキもいっしょに食べればと……」


そう告げながら、2つの手荷物を軽く持ち上げる。


「少々お待ちください。
 百花さまは席を外しておりますが、会長にお話ししてまいります」

そう言って俺に一礼すると、奥のスタッフルームへと姿を消す。



暫くすると奥から、着物姿の老人が杖をつきながら姿を見せる。



「亀城様、こちらは百花さまのお祖父さまにあたられる
 当画廊の会長の喜多川です」


相本さんが老人の紹介を終えると、
百花のお祖父ちゃんが、ゆっくりと名前を告げた。


「百花の祖父の喜多川昇山です」っと。


その名前を遠い昔、何かで聞いたような気もしたけど
特に、俺の中で引っかかることもなくて
俺は、百花の祖父に誘われるまま、奥の会長室へと通された。




促されるままに座ったソファー。

視線の先の壁には、
真っ白なドレスを着て、羽根を広げた
優しい少女の絵が視界に止まる。


その少女は……何処となく理佳に似ていた。


俺がその絵に夢中になっていたことに気がついてか、
百花の祖父は会話を続ける。