ちゃんと居るんじゃん。
私以外にも唯香を心配してるヤツがさ。
早く、元気になりなよ。
一緒にAnsyalのLIVEに行けるようにさ。
そしたら私も託実との事、唯香に聞いて貰えるんだから。
病室のドアを開ける。
冷蔵庫に、飲み物を片付けると
仮眠を終えた唯香がゆっくりと体を起こす。
「唯香、明日は私寄れないから。
お姉ちゃんの命日だからさ。
何かあったら、携帯連絡いれといて。
連絡入ってたら、終わった後に顔出すから」
「大丈夫だよ。
私も大分、落ち着いてるから。
百花もごめんねー。
ずっと迷惑かけっぱなしで。
ちゃんと退院したら埋め合わせするから」
翌日、朝から仕事を休ませてもらって実家へと帰宅。
久しぶりに対面する両親。
そして姉の位牌を納めた仏壇。
喪服姿で、姉が眠る墓地へと向かい、
まずはお寺でお参り。
30分ほどのお参りの後、
今度はお墓へと移動して参拝する。
グランドピアノをイメージした墓石をゆっくりと
柔らかい布でふき上げて、
周囲のゴミを拾い、草抜きをする。
8月下旬の残暑が照り付ける中、
時間をかけてお墓の掃除をすると、
お祖父ちゃん、両親、私の順番でお墓にお参りする。
*
お姉ちゃん、久しぶり。
お姉ちゃんの年を越えてもう4年も過ぎちゃった。
私の中のお姉ちゃんは、ずっと19歳のまんまなんて
不思議だよね。
私ね……今、好きな人が出来そうなんだよ。
会うだけでドキドキして、話せなくなるんだけど
私にとっては、夢のような存在の人だけど……
でも偶然が、本当は偶然じゃなくて必然ってこともあるよね。
だから見守ってて。
お姉ちゃんの分まで、私は幸せを掴むから。
*
そんな報告をしながら、
私はお姉ちゃんのお墓参りを終えた。
水桶と手酌を手に、再び境内に戻ると
両親やお祖父ちゃんとは遅れて、駐車場へと向かう。
愛車に向かう途中、再度……再会したのは託実。
「こんにちは、百花ちゃん」
「あっ、こんにちは。託実さん」
「奇遇だね」
「ホント、そうですね」
「この場所に誰かのお墓があるの?」
ふと託実さんが、そう問いかけてくる。
浮かびあがるのは、
大好きなお姉ちゃんの顔。
「あっ、この場所には大切な人が眠ってるんです。
託実さんは?」
そうやって答えて、同じ質問を託実さんにぶつけると
託実さんも静か言葉を紡いだ。
「ここには大切な人が眠ってる」
そう告げる託実さんの表情が何処となく寂しげで、
それ以上言葉を続けることなんて出来ないまま
私たちは墓地で別れた。
病院と墓地。
予定外の場所で再会した託実。
私の心の中には『ここには大切な人が眠ってる』っと
呟いた託実の言葉が深く心に突き刺さった。



