理佳、明日から香港行ってくる。
お前も気を向いたら来いよ。

けど……それも心配か……。

雪貴と俺が出掛けるから、
悪いけど、隆雪守ってやってくれよ。

また帰ってきたら、
今度は新曲聴かせてやるよ。

じゃ……行ってくるな。
理佳……。






静かに手を合わした後は、
自宅マンションへと車を走らせた。


だけどマンションに帰ったものの、
あまり眠れない。


その理由は、FC旅行の参加者名簿に
彼女、喜多川百花の名前を見つけたから。


ただ名前を見つけたって言うだけで、
俺は彼女の事ばかり考えてしまう。


そんな彼女の事ばかり考え続ける俺自身を
責める、もう一つの心。


そんな2つの相容れない心の葛藤は、
眠れぬまま朝を迎えた。


これ以上、布団に転がり続けても眠れないだろうと諦めて、
お風呂に浸かってから、空港へ向かう前に
隆雪に会おうと、マンションを出た。



病院に人が多くなる受付時間前なら、
ゆっくりと過ごせるだろう。


まだ真夏の朝日が顔を出し始めたばかりの時間に
いつものように、関係者出入り口から忍び込む。

警備員に挨拶をして、名簿に名前を記入すると
親友が眠る病棟へと移動した。



【宮向井隆雪】


病室のネームプレートに親友の名前を確認して、
俺はドアノブに手をかけて、
ゆっくりと引き戸を開く。



ドアを開けた俺の前には、
ベッドサイドの椅子に座った雪貴が、
ベッドで眠り続ける隆雪の傍、
伏せるように体を倒して眠っていた。



ったく……。


俺が向けた視線の先には、
旅行用の荷物が一式、整頓されている。