「雪貴、起きろよ。
 今日も学校だろ、もうすぐ6時だ」



雪貴の肩に手を添えながら声をかけると、
アイツは「託実さん……」と俺の名を呼びながら体を起こした。



「昨日連絡できれば良かったんだが、
 今日の夜、霞ヶ丘でシークレットが決まった」

「霞ヶ丘……兄貴たちがインディーズの頃から世話になってますよね。
 今日は5月18日。

 あぁ、ライヴハウスが出来た記念日なんですよね。
 いいですよ。

 試験前だから、夕方17時までには解放されると思うんで。
 俺、現地集合でいいですか?

 今日のセトリだけメールください」


そう言って、AnsyalのTAKAとしての役割に思考が切り替わっていく雪貴。


「悪いな、雪貴。
 送ってくよ、いったんマンション戻るだろ」


そう言って雪貴を病室から出るように促すと、
退室間際、眠り続ける隆雪を見つめる。



殺風景な病室。
アイツには似合わねぇな。


今日の午後にでも時間があったら、
母さんに聞いた画廊に出も行って来て、お前の病室に飾ってやるよ。


そんなことを心の中で呟きながら、扉を後ろ手に閉じた。



愛車に乗り込んで、雪貴をマンションに送り届け
ついでに学院まで送った後は、事務所の地下スタジオへと向かう。



朝から召集掛けた、十夜や憲たちはスーツを着こなしたまま
譜面を広げていた。



「お疲れです。
 朝から悪かったな、十夜、憲」

「別にオレはええよ。
 サクっと打ち合わせして、セトリだけ決めよか。
 その後は、紀天(あきたか)今日の予定は?」

「10時から1時間は会議。
 12時からは、早谷の会長と当会長との会食に同席予定。
 あちらもご子息が来られる予定です」

「あぁ、あかんわ。
 紀天、早谷のジイサン出てきてしもたら、はよう抜けられても二時間やな。

 悪い、リハ15時から17時くらいの二時間でもええか?
 んで本社に戻って、20時頃に現地に入るわ」



瑠璃垣財閥の御曹司と言うポジションの十夜は、
財閥においても片腕となってる、憲と打ち合わせをしながら今日のAnsyalとして確保できる時間を割り出す。



「了解。
 それまでの準備は、俺と祈でやっとくよ」


っと、今も眠そうな祈に視線を向ける。


「セトリ、こんなんでどうや?

 んでアンコールは、
 車椅子の例の女の子が聴きたい曲でもやろうか」




メモ用紙に書き込まれた5曲。


その場にいるメンバーでセトリを確認した後、
慌ててスタジオを後にする、十夜と憲。


二人が居なくなってシーンと静まり返った後は、
祈が黙々と、ギターを取り出して練習を始める。