いつもの様にIDカードを翳して病室の前へと向かう。
常駐している、
専属の看護師に挨拶をしてゆっくりとノックした。
「百花、ただいま」
「どうぞ」
中から声が聴こえて、ドアを開けると
キャンパスに真剣に向かい続ける百花がそこに居た。
「調子はどう?」
「今日は疲労感もそんなになくて、
看護師さんにお許し貰って、もう少し筆を握ってたの。
ほらっ、大分……色が重なってるでしょ。
でもまだ足りないんだ」
前回見た絵とは、違った雰囲気で俺の視界に映るキャンパス。
「百花、少しだけ俺に時間くれないかな?
話したいことがあるんだ」
そう言って切り出すだけで、俺の鼓動は激しくなる。
不思議そうな顔をして首をかしげながら、
百花はその手をとめて、ゆっくりと俺に向きなおる。
再度、深呼吸を繰り返して
ポケットの中から、リングケースを取り出した。
「百花、俺の隣で未来を歩いてほしい」
プロポーズをかっこよく決めようとか、
ここに来るまで、いろいろと思ってた。
けどようやく、口から零れ出た言葉は
想像していたどれとも違って、ただの願い事みたいな言葉。
それでも百花は……
嬉しそうに微笑みながら『はい』っと呟いた。
百花の左手の薬指に、
ピタリと吸い込まれるように輝いた指輪。
「有難う」
そうやって、
微笑んだ百花の笑顔は天使の様に穏やかで綺麗だった。



