「ねぇ、夢の中でね。
私、お姉ちゃんにあったの。
お姉ちゃんが言ってた。
私の絵のポストカードを、お姉ちゃんが持っててくれたって本当?
託実がくれたって、お姉ちゃん嬉しそうに笑ってたの」
「あぁ、確かに渡したよ。
理佳があの場所に行って、百花の絵の前から離れなかったから。
そしたらポストカードが販売されてて、当番だった生徒に売って貰った」
「そうだったんだ……。
あの時ね、私がギャラリーに戻ったら
部員達、大騒動だったんだよ。
悧羅校の陸上部のエース、託実がやってきたって。
海神の私たちには、託実が膝を壊してそんなことになってたなんて
知らなかったから。
託実はずっと、陸上部のエースで憧れの先輩だったの」
そう……Ansyalの託実だから、
憧れてたんじゃない。
託実は知らないと思うけど、ずっと前から
託実のことを知ってたんだよ。
お姉ちゃんよりも前から。
そんな思いを込めて、伝えてしまう私自身。
お姉ちゃんと張りあうためではないけど、
やっぱり少しでも託実を知ったのが早かったんだって伝えたかった。
恋心って複雑。
「そんな託実が今、
私の傍に居るって凄くびっくり。
あの時の美術部の友達も、凄く驚くと思う」
「じゃ、びっくりついでに俺からも百花に報告。
百花が見られたかどうかは俺には知らない。
だけど、あの時の学院祭で理佳が演奏したのは知ってる?」
「……知ってる……。
だって ゲストピアニスト:満永理佳ってお姉ちゃんの名前が
ポスターに入ってたから。
一番後ろで聴いてた」
「あの演奏も……理佳は百花の為に演奏してた。
本当は、理佳はあの頃も少し調子崩してて
親父たちも内心は出場を反対してた。
けど理佳が、モモが通ってる学校に行ってみたいってさ。
あのアイツが我儘言ったんだぞ」
何となく、託実とお姉ちゃんの当時の様子を想像して
ちょっとした焼きもちと同時に、お姉ちゃんに振り回されてる託実を想像すると
笑みが零れ落ちた。
「ゆっくり、教えてやるよ。
百花が知らない理佳のこと。
俺が知ってる、理佳のこと。
理佳がどんだけ、モモ命のシスコンだったか聞かせてやるよ。
だから……退院したら、アイツのお墓に一緒に行くぞ。
俺も、百花と一緒に行くまでは
一人では行かないから」
「……うん……。
託実と一緒に行く……」
「あぁ、一緒に行こう。
俺が……百花と理佳を繋ぐ、
架け橋になってやるから。
ちゃんと和解しろよ」
次の瞬間、託実からのデコピン。
「もうっ、痛い」
慌てて額を抑えながら抗議する私。
こんな時間が送れるのもこの入院生活がなかったら、
きっかけすらなかったかもしれない。



