「託実、まだ……辛いの?」
気遣う様に俺を見つめる裕真兄に、
俺は視線を反らすように窓から外を眺めた。
「俺は大丈夫だよ。
ほらっ、なんつーか、LIVEの後で感傷的になっちまったって言うか。
それより、裕真兄は?」
「こっちは急変待機で仕事中」
「裕【ゆたか】兄は?」
「まっ、あの人はどこ吹く風だから。
今は海外じゃないかな?」
「んじゃ、裕兄の友達の直弥【なおや】さんとか?」
「直弥は海外研修」
俺が知る限り名前を出して会話をやり過ごす。
「託実、今から上においで。
新しい茶葉を手に入れたから、
ティータイムにしよう。
その後、上のベッドで眠るといいよ」
裕真兄に誘われるままに、
理佳が昔過ごしたその病室を後にする。
今も、
この場所に足が向く。
温もりが、
恋しくなったら。
だけど……温もりが恋しくなるのは、
それだけじゃない。
Liveの時には、
いつも俺に真っ直ぐに視線を向けてくる、
ファンの女の子。
百花ちゃんの姿が理佳と時折重なるから。
だから……無性に餓えるんだ。
貴女は今も俺にとって
忘れられない君だから。
……理佳……。
君は今、
そっちの世界で何してる?



