「お休み、百花」
そう言って離れようとした託実に思わず手を伸ばす。
私を伸ばした手を、
託実はすぐに掴み取ってくれて微笑む。
「眠るまで此処に居てやるよ。
百花、結婚を前提に付き合わないか。
今日からもう一度」
突然の言葉に思わず涙が零れ落ちる。
悲しいから流す涙じゃなくて、
嬉しすぎて溢れだした暖かい涙。
「私で……いいの?
私はお姉ちゃんじゃないよ」
素直に飛び込みたいのに、
可愛くない私はそう問いかける。
「百花だから……いんだよ」
託実はそうやって、
照れくさそうに教えてくれた。
次に目覚めた時も、次の次に目覚めた時も
私の傍には、託実の笑顔がそこにあった。
「ねぇ、託実……。
託実がずっと病室で演奏していた曲、
昔、聴いたことあるんだ。
お姉ちゃんの告別式の時に一度だけ」
そう……お姉ちゃんとの最期の日に、
一度だけ聞いた、忘れられないサウンド。
「星空と君の手。
理佳が亡くなった後、隆雪と一緒に一晩で作ったんだ。
Ansyalの曲って言うよりは、俺と隆雪の曲かな。
ボーカルなんて言えるもんじゃなかったけど、
演奏しながら歌ってさ。
あの時は、自己満足だった。
けど……百花と出逢って、あの曲を今度はAnsyalの曲として
世に送り出してみたいと思った。
百花に……受け取って欲しい」
託実はそうやって、真っ直ぐに私を見据えて告げた。



