陸上部……、全国大会……。
私が通ってた神前悧羅学院は、
昂燿校・悧羅校・海神校と三つの校舎があった。
私の通ってた場所は海神校。
海神校と昂燿校の生徒は、学院祭などの学院行事の時のみ、
悧羅校舎へと足を踏み入れることになってた。
そんな離れた校舎で学ぶ私たちの元にも、
ずっと届いてた陸上部のエースたちの話題。
亀城託実。
「……託実って、あの陸上部の亀城先輩だったの?」
女生徒たちに人気で憧れの先輩。
学院の理事会メンバーの投票によって選出される生徒総会や、
各学校の生徒たちの投票によって選出される生徒会。
そんな雲上人たちの傍にいた先輩。
『モモは手をとらなくていいの?
託実の手を?』
お姉ちゃんが微笑みながら静かに紡いだ。
「だって……託実はお姉ちゃんの恋人でしょ」
吐き出すことの出来なかった
言葉が、零れ落ちる。
恋人と言う言霊を紡いだ途端、
心がチクリと悲鳴をあげた。
涙が頬を伝う。
涙を流し続ける私を
お姉ちゃんの腕が包み込む。
『モモ。
確かにあの時、お姉ちゃんにとっての
託実はとても大切な存在だった。
でも今は違う。
今の私には託実を包み込む、その腕はもうないの。
何時までも私に縛られて欲しくないし、
私も縛られたくない。
現世に……何らかの形で縛られ続けると
天国の扉は潜れないの。
選ぶのはモモと託実。
二人がお互いを選ぶなら、
お姉ちゃんは反対なんてしない。
だってお姉ちゃんにとって、
どちらも大好きだもの。
モモも託実も
かけがえのない存在だから』
優しく微笑みかけたお姉ちゃん。
*
……託実の傍に居たい……。
お姉ちゃんが許してくれたら、
お姉ちゃんの分まで沢山……託実を愛したい。
*
心の中で念じた途端にお姉ちゃんの頭上には、
天使の羽根がひらひらと降り注いでいく。