陸上部……、全国大会……。




私が通ってた神前悧羅学院は、
昂燿校・悧羅校・海神校と三つの校舎があった。

私の通ってた場所は海神校。


海神校と昂燿校の生徒は、学院祭などの学院行事の時のみ、
悧羅校舎へと足を踏み入れることになってた。



そんな離れた校舎で学ぶ私たちの元にも、
ずっと届いてた陸上部のエースたちの話題。


亀城託実。




「……託実って、あの陸上部の亀城先輩だったの?」




女生徒たちに人気で憧れの先輩。

学院の理事会メンバーの投票によって選出される生徒総会や、
各学校の生徒たちの投票によって選出される生徒会。

そんな雲上人たちの傍にいた先輩。



『モモは手をとらなくていいの?
 託実の手を?』

お姉ちゃんが微笑みながら静かに紡いだ。


「だって……託実はお姉ちゃんの恋人でしょ」


吐き出すことの出来なかった
言葉が、零れ落ちる。


恋人と言う言霊を紡いだ途端、
心がチクリと悲鳴をあげた。

涙が頬を伝う。


涙を流し続ける私を
お姉ちゃんの腕が包み込む。



『モモ。
 
 確かにあの時、お姉ちゃんにとっての
 託実はとても大切な存在だった。
 
 でも今は違う。
 
 今の私には託実を包み込む、その腕はもうないの。

 何時までも私に縛られて欲しくないし、
 私も縛られたくない。

 現世に……何らかの形で縛られ続けると
 天国の扉は潜れないの。

 選ぶのはモモと託実。

 二人がお互いを選ぶなら、
 お姉ちゃんは反対なんてしない。


 だってお姉ちゃんにとって、
 どちらも大好きだもの。
 
 モモも託実も
 かけがえのない存在だから』



優しく微笑みかけたお姉ちゃん。





……託実の傍に居たい……。
 
お姉ちゃんが許してくれたら、
お姉ちゃんの分まで沢山……託実を愛したい。






心の中で念じた途端にお姉ちゃんの頭上には、
天使の羽根がひらひらと降り注いでいく。