理佳が旅立っても、
誰一人、傍に居た俺を責める奴なんていない。
理佳のおじさんも、おばさんも
『託実君、有難う。
託実君が傍に居てくれて、あの子は幸せだったよ』
そうやって……俺を労い続けた。
俺の罪悪感に気づこうともしないで、
俺の想いに寄り添おうともしないで。
そんな感情を持て余した俺の、
八つ当たり。
『お姉ちゃんには逢えないの。
お姉ちゃんには逢わないって決めたの。
最初はずっと寂しかった。
私の傍には、お父さんもお母さんも居なくて私はずっと一人で
お姉ちゃんに全部取られたって思ってた。
だけど……それでも理佳は、私のお姉ちゃんだもの。
私だって何度も、病院には来てた。
でも逢えなかったの。
その場所で、お姉ちゃんがどんなふうに過ごしてたか知ったから。
わかったから。
だからね……お姉ちゃんに長く生きて欲しくて、
私は神様にお願いしたの。
百は、お父さんもお母さんも諦めるから、
お姉ちゃんにあげるから、お姉ちゃんを助けてって。
お姉ちゃんが元気になるなら、百はお姉ちゃんにも会わないからって。
大切なもの全部で、神様にお願いしたの。
そんな私の気も知らないで、勝手なこと言わないでよっ!』
初めて出逢った百花は、
自分の感情を剥き出しにするようにわめいた。
そんな百花が、
俺の前からゆっくりと遠ざかっていく。
*
「百花っ!!」
襲い掛かる恐怖から逃れるように、
百花の名前を叫ぶ。
同時に目を開けて、
荒い呼吸を、ゆっくりと整えていった。
「託実……、
少しベッドに横になろうか……」
言われるままに、静かに横たえるからだ。
頭の芯の重怠さ。
気怠さが体中を包み込んでいく。
「ゆっくりと呼吸して……目を閉じて。
少しずつ、少しずつ
時間を戻しておいで。
帰っておいで。
託実、私が待つ時間まで……」
心の中、時間の滝を登っていく。
声に導かれるまま辿りついた現代(いま)。
深呼吸をして……裕真兄さんのきっかけを
合図にゆっくりとその目を開ける。
先ほどまでの重だるさが
不思議なほどにすっきりしていた。



