託実にそんな仕草をされるたびに、
ドキっと鼓動が高鳴る。

心臓の音が聴こえちゃわないか不安に思いながら、
託実にお辞儀をして、助手席へと体を滑り込ませる。

ここ1ヶ月で、ようやく慣れてきた託実の愛車。

助手席のドアがゆっくりと閉められて、
託実が運転席へと乗り込んでくる。

ゆっくりと駐車場から車を走らせた託実に、
私は一つのお願いをしてみる。


今日はお姉ちゃんの月命日。
忙しくてまだ行けていないお墓参りをしたくて。


「託実さん……今日は何処に行くんですか?」

「今日も何時ものホテルに行ければと思ってる」

「少し寄りたいところがあるんです。
 寄ってもいいですか?」

「構わないけど近く?」


託実は真っ直ぐに前を向きながら、返事を切り返す。


「えっと……連れてって欲しいんです。
 前に託実さんとお逢いした、あのお寺の駐車場まで。

 その途中にお花屋さんがあれば立ち寄りたいんだけど」


暫くの沈黙の後、車内に託実さんの声が響く。


「前に大切な人が眠ってるって教えてくれたよね。
 
 百花ちゃんの大切な人の話、
 聞いてもいいのかな?」

「あぁ、あそこで眠ってるのはお姉ちゃんなんです。

 お姉ちゃんは、私が小さい時に心臓が悪かったみたいで
 殆どあうことはなかったんです。

 ずっと病院に入院してばかりだったから。

 殆ど、会ったこともないし覚えてないんだけど
 だけど大切な家族だから……」


ダメだ……。


お姉ちゃんのことは、
まだ誰かに話すなんて出来ない。

これ以上は……話せない。


そんな思いから、ずっと沈黙してしまう。



8月のお姉ちゃんの命日の日に、
駐車場で出逢った託実。


あの場所には託実にとっても「大切な人が眠ってる」。



そう教えてくれた託実。



その人は……託実にとってのどんな人なの?


大切な人って言ってもいろんな形がある。


家族かもしれないし、友達かもしれない。
もしくは……恋人?



この時間は夢のような時間だけど、
私は託実の過去を何も知らない。


Ansyalの託実としての時間なら、
素で言うことが出来ても、本当の託実を殆ど知らない。