「例、ねぇ……。まぁ、その人によるかなぁ」

人差し指を唇に押し当てながら、棗ちゃんが答えた。


「それじゃ答えになってないよ…」

「だーかーらー、その人によるっていうのは、互いにとっても互いが恋愛対象として見れるかどうかってこと!それがなきゃ恋愛に発展しないでしょ!」

棗ちゃんはびしっと指を突き出した。


「ま、あんたの場合は、あの兄に叶わぬ恋をしてるってとこ?」

「! な…なななななな、なんで棗ちゃ…え!?…なん…っ?!」

「ははーん♪だって、ひよは分かりやすいからねー」

棗ちゃんがニヤリと笑う。


「あんまり分かりやすかったら、そのうち兄の方にバレちゃうわよ?」

「!!!!!」

私は真っ赤になりながら机に伏せ直す。



…まだ、この気持ちを郁ちゃんにバレるわけにはいかない。



私の気持ち一つで、郁ちゃんを困らせたくない。

郁ちゃんを困らせて、今の関係を壊してしまうぐらいなら一生、私の片想いでいい。


「おーい、席つけー」

予鈴と共に担任が教室に入ってきた。

熱を持つ頬を押さえながらゆっくりと上体を起こすと、隣の席に郁ちゃんが、そしてその後ろの席に樹里くんが戻ってきていた。


『あんまり分かりやすかったら、兄の方にバレちゃうわよ?』

棗ちゃんの言葉が蘇って、さらに頬に熱を持つのを感じた。