「じゃ、乗って乗って!」
棗ちゃんは私を自転車の後ろに乗せると、
走り出した。
漕ぎ始めて十分後ぐらいに、自転車が
坂道に差し掛かる。
「ひよ、いっくよー!」
坂道を下ると、涼しい風が
私達の髪を揺らしてく。
(……涼しいな…)
さっきまで重かった気分が、
少し晴れた気がした。
……けれど、そんな気分は
ほんの気晴らし程度の一瞬だった。
学校に着くと、
校門前に見覚えのある姿が見えた。
(あ…!)
私の視線の先には、
郁ちゃんと昨日の彼女がいた。
「うっわー…。
朝からラブラブ登校ってやつ…?」
棗ちゃんが小さく呟く。
(…何で?今まで郁ちゃん、
その人と登下校してなかったのに…。
やだ…泣きそう……)
私はきゅっと唇を噛み締めた。
「…ひよ、行こ」
私の様子を察したのか、
棗ちゃんが私の手を引いて歩き出した。
(嫌だけど…
郁ちゃんの隣を通るしか道がない…)
私は極力目を合わせないように
下を向いた。
(郁ちゃんが気付きませんように…!)
ぎゅっと目を瞑って心の中で呟く。
すると、不意に
誰かが私の腕を掴んだ。
