「…ひよちゃんが家を出て、
上京したって聞いて…正直焦った。
今やもう有名人だし、もしかしたら
他の誰かと結婚してるんじゃないか…って
気が気じゃなかったよ」
樹里くんがさっきより少し強めの力で
私の手を握りなおす。
「でも偶然、仕事の関係で
ひよちゃんのことを知って、
これはチャンスだって思った。
会えるかも、って」
「…っ…」
どうしよう、涙が出てきた。
空いた手で涙を拭おうとした時、
樹里くんが赤いバラの花束を
私の前に差し出した。
「…綾瀬ひよりさん」
樹里くんが真剣な顔で私を見上げた。
「俺と結婚してください」
彼の真っ直ぐな言葉が、
真っ直ぐな視線が、私の心を射抜く。
「もう、泣かせたりしない。
絶対に君のこと、大事にする」
「…っ…」
「俺と、一緒に人生を歩んで下さい。
君には俺の隣で笑っていて欲しい」
私はバラの花束を見下ろすようにして
顔を俯かせた。
「…ひよちゃん?」
傍らで心配そうな声が聞こえてくる。
