…そう、あれからもう5年が過ぎ、
家を離れて上京してきた私は
小説家になっていた。
実は、自身が体験したことや、
思いついた話を病院でリハビリの合間に
暇つぶしとして書いていたりしていた。
そのうち楽しくなってきて、
もっと自分の作品を読んでもらいたい、
私の作品で少しでも誰かの心を
動かせたら…と、思うようになっていた。
「…それにしても、今や先生は
どの作品も大ヒットする
売れっ子ですね!」
ずずず、と私が淹れたコーヒーを
すすりながら鈴木さんが言う。
「私、先生の最初の作品、大好きです!
あ、もちろん、先生の話は
全部好きですけど!」
「ふふ、ありがとう」
「大変な思いをされてるのは
重々承知ですけど……先生のこと、
本当に尊敬してます!」
…そう、彼女の言う"大変な思い"……。
あれから、私の体はやっぱり少し
麻痺が残った。
体調によっては、今日みたいに
車椅子が必要なかったり、
場合によっては要る時がある。
でも、日常生活を送る上では
ほとんど問題ないほどにまでは
回復はしたのだ。