それでも君が好きで。




私の言葉に、樹里くんは


「…歩くことは可能になっても、
走ることは……無理かもしれない」


と答えた。



走れなくなるということは、
今までみたいに樹里くんの元へ
すぐに駆けつけることが
出来なくなるということ。



気軽に会いに行けていたあの日には、
もう戻れないのだ。



「…っっ…」


私は唇を噛み締めた。


歩くこともままならなくなったせいで、
私の傍にいる樹里くんの人生は、
これからも私のことで
縛られてしまうことになる。


それは、私が一番好きだと思う、
あの笑顔を奪うのと同じこと。



……私にはもう、迷う暇なんてないんだ。



彼には、いつだって自由でいて欲しい。


それなら答えはひとつだけ。




「…樹里くん」


私が彼に手を伸ばすと、
樹里くんも私の手を握ってくれる。


無機質な機会音が響く中、私はギュッと
唇を引き結んだ。