「…棗!」
名前を呼ばれてハッとする。
「! な、何?」
顔を上げると、血相を変えた橘が
家に飛び込んできていた。
「あ、綾瀬さんが…っ……
交通事故に遭ったって…!」
「え…?」
あたしは橘が何を言っているのか、
一瞬理解できないほどに驚いた。
「だから、綾瀬さんが交通事故に
遭ったんだってばッッ!」
橘があたしの両肩を掴んで叫ぶ。
「う、そでしょ…?橘、冗談言わないで…」
「バカッッ!!!!!冗談じゃねぇっての!!」
真面目な橘の怒鳴り声に、頭が少しずつ
冷えて冷静になってきた。
「…そんな、やだ…っっ…」
小学校からの親友であるひよりが、事故?
「…っや……」
不安から涙が零れ落ちる。
泣くなんてこと、久しぶりだ。
でも、親友の緊急事態に
どうしていいか分からず、動揺している。
「やだよ…っ…ひより…っ…」
「落ち着け、棗!!」
橘が動揺するあたしを抱き締めた。
「っ…たち…ばな…?…」
「絶対、大丈夫だから…。
俺がいるから、落ち着け」
橘はあたしの背中をさすりながら言った。