救急車が去ったあと、人ごみはどんどん
霧が晴れた様になくなる。
その中で一人、俺は膝をついて
俯いていた。
頭の中になんだか暗い靄が広がって、
何も考えられない。
「君。ここにいては危険だから
早く帰りなさい」
大人しくなった俺に、警官が
立ち入り禁止のテープが
張り巡らされた所から歩道へ押しやる。
「………ひよちゃん…………」
そう力なく呟く言葉と同じように、
俺の体から力が抜けていく。
──『樹里くんの言葉、私、
ホントに嬉しかったのに…!』──
最後に交わした言葉が"これ"だなんて…。
「…嫌だよ……」
誤解を解いておきたかったのに。
そうしたら、君の
あの笑顔が見れると思っていたのに。
どうして。
どうして、彼女が
こんな目に遭わなきゃいけない?
違う、俺が……。
俺が、彼女をこんな目に遭わせたんだ。
降り始めた雨が俺を容赦なく叩いていく。