「…郁ちゃん…?」


ひよりの声に、はっと我に返る。



「どうしたの?まだ具合悪い?」

「え、あ、いや…別に……」



何だか悟られそうな気がして、
俺は一歩後退る。



「…郁翔。決まってないなら、
誰かに相談すればいいじゃん」


樹里の一言に顔を上げる。


「あのさ、今更兄だからって
全部押し込んでまで、
一人で悩む必要ないだろ。
俺達がいるんだから、
もっと頼ればいいじゃん」

「もしかして、郁ちゃん…
進路のことで悩んでたの?」



樹里の言葉を聞いたひよりが、
俺に尋ねてきた。



(もう、ここまできたら、
誤魔化すことなんてできない、よな…)



俺は観念して頷いた。



「…俺、みんなみたいに夢とかないし、
何すればいいかとか、全然決まらなくて…」

「何すればいい、じゃなくて、
何したい、かだよ。
お前は今、何したいわけ?」


樹里が眉一つ動かさずに、俺を見る。


「要は、お前が一番どうしたいか、だよ。
それでも見つからないっていうなら、
勉強しながらでも見つけることだって
可能だろ?」

「それか、郁ちゃんの
得意分野を活かせるものを探すか、だね」

「ていうか、梨本兄は面倒見いいとことか
あるし、ひよりみたいな夢を
追いかけてみるといいんじゃないの?」

「それって、保育士さんとか?」

「保育士の郁ちゃんかぁ…素敵だね!」