「郁ちゃん…?」


優しい声が傍らで聞こえた。



「大丈夫?痛いとことか、ない?」


ひよりが心配そうに俺を見つめていた。



「あ、うん…特には…」

「あ、待って。
無理して起きなくていいから、寝てて。
…それよりも、やっぱり
郁ちゃん、寝不足だったんだね」


悲しそうな顔で、ひよりが言った。



「…先生がそう言ってたのか?」


俺が尋ねると、ひよりは頷いた。



「……ねぇ、郁ちゃん…」


ひよりがそっと俺の手を握る。



「寝不足になるほどの悩みがあるなら、
私、聞くよ?
だから、もうそんな無理しないで…?」


今にも泣きそうな顔で、ひよりが言う。



「前に私が、郁ちゃんをこんな風に
させてしまった事、すごく後悔してる…。
だからこそ、郁ちゃんにはもう、
あんな思いさせたくないの……」


ひよりが言う、"前"というのは、
ひよりが家に帰ってこなかった
あの時の話をしているのだろう。


あの時は、俺が自分であんな風に
なっただけなのに、そのことを
ひよりが気にしていたことが、なんだか
申し訳ない気持ちになった。