「…あ、あとさっきの続き。
俺自身の夢の為ってのもあるから」


樹里が手洗いうがいを終えて、
キッチンの冷蔵庫から
ミネラルウォーターのボトルを
取り出しながら言った。


「夢?」

「そう、"夢"」



にやり、と口の端を吊り上げる。


「お前もさ、夢とかあったほうが
進路も考えやすいんじゃないの?」


樹里が水を飲み干して言う。



「そ、れは…」

「だって、机の上のそれ、真っ白じゃん」

「!!!!」


樹里が指差した方向を振り返ると、
自分が進路の紙をリビングの机に
置きっぱなしだったことに気付く。


「さっき悩んでないって言ってたの
ウソだったんだ~」


樹里の腹立つ笑顔に、
イライラが募り始める。


「ま。でも、真面目な話。
ホントに自分がしたいことを
探してみたらいいと思うよ、俺は」


樹里はそう言うと、リビングを出て
自分の部屋へと戻っていった。


「自分の…したいこと…」


ぎゅっと進路の紙を握りしめて、
俺は立ち尽くすことしかできなかった。



したいこと、って何だろう。
みんな、もう自分の進路を
決めてしまっているのだろうか。


そう考えると、焦りが俺を急かしていく。


でも、それは俺の考えを余計に鈍らせた。



早く決めないと。
その思いが、余計に時間を掛けていった…。