「…結局、"梨本くん"も綾瀬さんが
いいんでしょ!」
結城さんが吐き捨てるようにして言う。
「そうかもな。
その最悪な性格さえ知らなければ、な」
郁ちゃんがそれに
突っかかるようにして答えた。
「……っ、私は諦めない!
こんな、幼馴染みっていうだけで
そばにいられる人なんかに、
私は負けないんだから!」
結城さんはそう言うと、
屋上を飛び出していった。
「…あ…」
私は郁ちゃんを見上げた。
「いいんだよ。それより、この頬…。
ごめんな、痛かっただろ…?」
さっきの声とは裏腹に優しい声が、
私に降ってくる。
彼の優しい手が、私の腫れた頬に触れる。
「へ、平気だよ…それより、
郁ちゃんは彼女と……別れた、の…?」
頬に当ててくれる手をさりげなく
解きながら尋ねた。
「…うん、別れた。
相手に気持ちがないなら、
付き合ってたって仕方ないだろ」
「そっか…だよね……」
二人の間に沈黙が流れる。
「ほんとにごめんな。ひよりを
追い詰めるような形になってしまって…」
郁ちゃんが申し訳なさそうに言う。
「…ううん、いいの。
確かに私って贅沢だよね…。
私にとって当たり前のことが、
周りからしたら羨ましがられる
ことだなんて知りもしなかった…」
「?、どういう意味だ?
羨ましがられるも何も、幼馴染みなら
そばにいたって普通のことだろ?」
