今更どういう風をあいつが吹き回そうと、
俺には関係ない。
出会った時からずっとずっと、
あいつのことは嫌いだ。
──『私ね、郁翔くんと
付き合うことになったの』──
そういったあいつの、あの時の顔は
本当に幸せそうだった。
だけど、今のあいつは-…。
「…樹里くんっ!」
ひよちゃんの声にはっと我に返る。
「え、な、何?」
「何って…もう教室過ぎちゃったよ…?」
「…あ…」
気付けば空き校舎の
ドアの前まで歩いてきていた。
そして、自分がひよちゃんの手を
強く握り締めていたことに気付く。
「ごめん。手、痛かったよね…」
ひよちゃんの手をゆっくりと
さすってあげる。
「…樹里くん…?」
この小さな手を離すわけにはいかない。
これからずっと守ると
決めた手なのだから…。
「ひよちゃん、ごめん……」
俺はそう言うと、彼女を抱きしめる。
「? 樹里く──」
喋ろうとした彼女の唇に唇を重ねる。
