少し伏せられた睫毛が、
微かに揺れている。


「…聞くよ、全部。
樹里くんが話したいと思ったなら…」


私は答えた。


樹里くんは私の顔を見ると、
「ありがとう」と言って抱き締めた。



「…結城が俺に勝手にしたことだよ。
俺の意思があってしたわけじゃない」


樹里くんは言いながら、私の手を握った。



「…うん…」


私は答えて、その手を握り返す。



「少しでもいいから、あいつとのことを
消したかった…。
だから…ひよちゃんにキスした…」


私の手を握る樹里くんの
手の力が強くなる。



「そんなことために、って…最低だって
分かっていながら…でも、
ひよちゃんじゃなきゃ嫌だった。
好きだから…ひよちゃんに
消して欲しかったんだ…」


樹里くんが私を見つめる。


「…なんて、こんな自己満足、
押し付けられたって困るだけだよな…。
ごめんね…」


樹里くんが辛そうに笑った。


その表情に胸が締め付けられて、
私は思わず樹里くんを抱きしめた。


「…話してくれてありがとう…。
もう、いいよ…」


私は言い聞かせるように言った。



「私なら…構わない。
そんなことで、樹里くんを最低だなんて
思ったりしない」