「ほら、バカ犬。行くよっ」
「うわーん、痛い!棗ぇ!
耳引っ張んないでー!!!!!」
三橋たちの声にはっと我に返る。
「なぁ、あお─…」
俺の声はそこで途切れた。
目の前に立つ碧海の視線の先には、
樹里とひよりの姿。
いや、樹里だけ、というのが
正しいかも知れない。
「碧海」
俺はもう一度呼んでみた。
はっとした碧海とようやく目が合う。
「…遅れるし、行こうか」
言いたいことを押し込めて告げる。
碧海は頷くと、俺の腕に掴まってきた。
「? どうした?」
「なんでもない……何でもないよ」
碧海はそう答えると、もう一度前を見た。
その視線には、意味が含まれている
ような気がした。
きっとそれは、俺にとっては…。
よくないものなのだろう。