そこには偶然、ひよりと樹里がいた。
「はい、樹里くん。
あれから怪我、大丈夫?」
「ひよちゃんの手当てのおかげで、
だいぶマシだよ。
そもそもそんなに深くなかったしね」
「そっか。なら良いんだけど…」
ふと、ひよりがこちらに気が付く。
「…おはよ、郁ちゃん」
ひよりはいつもの笑顔で言った。
「あ、あぁ。おはよ…」
バチっと樹里と視線が合う。
「…ひよちゃん、行こ」
樹里はそっぽを向くと、
ひよりの手を取って歩き出した。
──『彼は悪くないんだから、
彼にちゃんと謝ってね』──
碧海の言葉を忘れてたわけじゃない。
けど、気まずさから言い出せなかった。
「…っ…」
もどかしさから痛む胸を押さえて、
俺は俯いた。
どうしていいか分からないせいで、
何だか頭の中がぐちゃぐちゃだ。
謝らなきゃいけないのに、
樹里の反応が怖くて謝ることができない。
これは自分が招いた事態への罰だ。
もしかしたら、樹里はもう
口すら聞いてくれないかもしれない。